Leica M10-P “Reporter”
昨夜から降り続いた雨は上がっていた。
歩道に水溜りができている。
その水溜りに写り込んだ赤信号を撮影しようとライカを構える。
何人かの通行人が水溜りを避けながら通り過ぎてゆくたびに、水溜りの中には、それぞれ違った世界が映し出された。
しばらくするとファインダーの上から女性の脚が、すうーっと入り込んできた。
そして、ファインダーでは捉えきれていない部分が、水溜りに映し出された。
スラリと伸びたその細い足でも十分に支えられそうな細く引き締まったボディーラインだ。
モデルとまでは言わないまでも、目鼻立ちもよく整った顔をした女性のように見えた。
この通りに多く立ち並ぶブティックの店員なのかもしれない。
どちらにせよ自分には縁のない相手だ。
そんなことを考えながら、その彼女が写り込んだ水溜りの写真を数枚、撮影した。
やがて信号が変わり、彼女は水溜りの中から勢いよく飛び出していった。
結局、すぐ目の前に立っていたはずの彼女の姿を直接、自身の目で捉えることもなく、目の前には水溜りだけが残された。
その水溜りには、また違う世界が広がっていた…。