Leica M10-P “Reporter”
いつものようにライカを片手に、いつもの散歩道を歩く。
人影もまばらな公園で若い女の子二人が、なにやら話し込んでいた。
一人はしゃがみ込み、もう一人はしゃがみ込んだ女の子を見下ろすように立っている。
よく見るとしゃがみ込んだ女の子が小さなカメラをベンチの上に置き、撮影の準備をしているようだった。
インスタか何かの写真でも撮るのかと思って見ていると、突然、二人揃って立ち上がり踊り始めた。
ダンスの動画を撮影しているようだ。
ダンスに詳しいわけではないけれど、お世辞にも上手と言えるレベルではないように思えた。
それでもお構いなしに、彼女たちは、同じような動作を何度も繰り返している。
なんとなく微笑ましく思えた。
彼女たちは、きっと、周りの目など気にしていないのだろう。
ただ単にダンスの練習なのか、もしかしたらコンクールかなにかにエントリーするためのビデオを撮影していたのかもしれない。
良くも悪くも、都会の人は他人には無関心だ。
時間帯によっては、それなりの人通りがある場所でも、誰かが踊っていようと、叫んでいようと、特に関心を持つ人はいないだろう。
それが、いいことなのか、悪いことなのかはわからない。
特になんの利害関係もないことならまだしも、良からぬことを考えている者に対しても同じスタンスだ。
見て見ぬふり…。
人々は、そんなふうにしていても、今はどこに行っても誰かに見られている世界だ。
監視カメラが街のあちこちに設置され、一昔前なら解決までにかなりの時間を要したり、もしかしたら迷宮入りになるような犯罪も、監視カメラの普及により、迅速なスピードで事件解決へとつながる。
もちろん、彼女たちが悪いことをしているわけではないので、なんの問題もないし、彼女たち自身もやましいことなどないだろう。
そんなことを考えながら、葉が落ち始めた銀杏の木を見上げると、その向こうからお月様がこちらを見ていた。
俺も誰かに見られている。
もちろん彼女たちと同じで、なにもやましいことはない。
誰かに見られているから、ちゃんと生きる。
誰にも見られていないから、いい加減に生きる。
そういうことではないだろう。
たとえ自分の周りに自分を知る人がいなくても、いつも、絶対に、どこかで、誰かが、見ているのは確かだ。
そう、あのお月様のようにね。