Leica M10-P “Reporter”
陸橋の下の坂道を覗き込むと、そこには一人の女性が手押し車を押しながら歩いていた。
ここにやってくる途中、少し手前の横断歩道でたまたま一緒になり、手押し車の前輪が車道と歩道の段差に阻まれて立ち往生していたのを助けてあげた女性だった。
そこからの距離と時間を考えると、自分が歩くスピードに比べると、かなりゆっくりなのが想像できた。
だが、確かにゆっくりではあるが、一歩、一歩、その足取りは力強い。
腰が曲がってしまい、もしかすると一人では歩行が難しいのかもしれない。
それでも、しっかりと大地を踏み締め進んでゆく姿を見ていると、ぼんやりとだが彼女がここまで歩んできた人生を勝手に想像してしまった。
横断歩道でほんの少しだけ手を添えてあげた時には、助けてもらって当然というような態度は一切なく、「ご親切にどうもありがとうございますね」と、曲がってしまった腰をさらに曲げておじきを返された。
きっとこれまでにも多くの人に感謝を忘れずに生きてこられたのだろう。
自分の周りでは、歳をとるにつれてわがままになったり、横柄になってしまった人生の先輩方を多く目にしてきた。
ゆっくりと坂道を登る彼女の背中を見つめながら、自分自身はこの方のように生きていければ…と、思った。