進むだけが道じゃない

進むだけが道じゃない

Leica M10-P “Reporter”

 

夕闇がせまる頃から“ほぼ”皆既月食というのが始まるということだったので、近所を歩いてみた。

高いビルが立ち並ぶ都会では、空はビルとビルの隙間から微かに見えるだけだ。

事前に調べた情報によると、方角的には部屋のベランダからバッチリ見えるようだったが、あえて街を歩いてみた。

すでに月食が始まっていたが、周りに空を見上げる人はいなかった。

道ゆく人はみんな、そんなことには興味がないと言った様子で足早に家路を急いでいるようだ。

月食自体はほぼ毎年発生するわけだが、この“ほぼ”皆既月食が日本全国で観測できるのは89年ぶり、次回観測できるのは65年後ということで、自分は前回は生まれておらず、次回はもうこの世にはいないだろう。

今回は日本のどこにいても同じ月が見られるということだ。

そう思うとすごく貴重な経験を今まさにしているのかもしれない。

こうして空を見上げることなく家路を急いでいる人たちが、なんだかすごくもったいないことをしているように思えてきた。

まあ、だからと言って宵闇の中、道ゆく見ず知らずの人たちに「月食始まっていますよ」と声をかけるのも気が引けるし、もちろん今の時代にそんなことをやれば、子供たちには「不審者」、女性なら「変質者」として、警察に通報される可能性だってあるだろう。

色んな意味で、世知辛い世の中になったものだと思う。

この街で暮らす多くの人々が、ほんの少し足を止めて空を見上げる余裕すらない生活を送っているのかと思うと、余計なお世話だけど、なんだかかわいそうになった。

でも、そんな時代だからこそ、たまにはこうして空を見上げてみるのも、いいんじゃないかな…。

 

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