記憶に煙る街

記憶に煙る街

Leica M10-P “Reporter”

 

朝から雨が降り続いていた。

こんな日は一日中、部屋にこもっているのが一番だと思ったけれど、どうしても確認しておきたいことがあり、ターミナル駅すぐそばのビルまで出かけてきた。

地下鉄の駅から地下街を抜けて目的のビルに着くと、そこは吹き抜けになっていた。

外を見上げると、雨に煙るビルがいくつか見えた。

東京ほどではないけれど、この街にも高いビルはある。

駅前に並ぶそんなビルの天辺が見えなくなるほどに雲が低く垂れ込めていた。

激しい雨の中、傘をさした人々が足早に通り過ぎてゆく。

こんな激しい雨の中、こうして勤務先に向かわなければならない人々に同情しながら、そんな生活から逃れられた今の自分が少しだけラッキーに思えた。

 

 

自分が行くべき場所もなければ、自分がやってくるのを待っている人も、組織も、今はない。

今日のこの外出だって、どうしてもという必要に迫られたものではない。

自分の趣味の分野で確認しておきたいことがあっただけで、こんな雨の日にどうしても出かけなければならない理由などなかった。

だけど、いつでもいいこととはいえ、こうした雨という天気を理由に先延ばししていたのでは、今後こんな日が来るたびに、そんなどうでもいい理由で世間との関係を自ら希薄なものにしてしまうような気がして、予定通り外出することにした。

もちろん、積極的に世間と繋がっていなければならないわけではないし、それがなくなることに恐怖心を抱いているわけでもない。

でも、今はこうやって雨が降っていようと街に出てカメラを構えることくらいしか、世間と繋がっていられる術がないように思うのも事実だ。

焦っているわけでもなければ、慌てなければならない理由があるわけではない。

ただ、世間との最低限の接点を求めて、明日からもライカ片手に街を歩き続けるだけだ。

 

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