Leica M10-P “Reporter”
その日、都内のマンションにいた。
部屋は3階だったが、これまでに経験したことのない規模の大きな揺れを感じた。
壁に飾ってあったガラス製のオーナメントが床に落ち、粉々になって壊れた。
テレビも転げ落ちそうになった。
その後も余震とみられる揺れが続いたが、少し落ち着いたところでマンションの1階まで降りた。
マンションの前の歩道でガードレールにもたれかかるように座り込んだ女性が、肩を小刻みに揺らしていた。
聞くと同じマンションの8階に住む人だった。
窓から差し込む光
「一人でいると怖くて…。タンスも食器棚も倒れて、食器も粉々で部屋の中はぐちゃぐちゃなんです」と目を潤ませていた。
「それは大変でしたね」
今思えば、なんとも間抜けな言葉しかかけてあげられなかった。
そのまま放ってはおけない感じだったので、しばらくその女性の横に立ち、話を聞いてあげた。
何十分、いや何時間だろう、その女性を慰めながらその場にいたのは…。
いつの間にか日が暮れて、気がつくと歩道は近くのオフィスビルから出てきて徒歩で家路を急ぐ人々で溢れかえっていた。
マンションのエレベーターが止まっているのはわかっていたけれど、この時初めて地下鉄も全て止まっていることを知った。
「これは大変なことが起きている」
一緒にいた女性を非常階段で部屋まで送り、「一人で心細かったら連絡ください」と連絡先と部屋番号を伝え自分の部屋に戻った。
幸い停電していなかったのでテレビをつけたら、どのチャンネルも全てこの地震のことを伝えていた。
東北地方が大惨事になっていることも、この時初めて知った。
自分が「これは大変なことが起きている」と思ったその遥か上をいく、とんでもない事態が起きていた。
多くの人々が犠牲になっていた。
翌日以降、当然のことだけど、そんな時に悠長にやっている場合ではないだろうと思われるようなイベントの多くが中止を余儀なくされた。
前年から自分自身が関わっていた事業も、やっと軌道に乗って本格的に動き出したばかりだった時期で、それらのイベントにも関わっていた案件もあり、全く先行きが見えない状態になった。
階段の手すり…伝っていくもの
あれから10年…。
街が落ち着きを取り戻し、徐々に元通りになっていく中で、自分が関わってきた事業も大きく前進した。
自分自身の生活も色々な部分で前進したり、また後退したりを繰り返しながら、気づけば周りの景色も大きく変わっていた。
そして今年、事業ではこれまで経験したことのない大きな流れに飲み込まれようとしている。
十年一昔。十年一区切り。
チャンスなのか、ピンチなのか、今はよくわからないけれど、もしかしたら新たな一歩を踏み出す、いいタイミングなのかもしれない…。