冬の砂浜に置き去りにされた夏の思い出

冬の砂浜に置き去りにされた夏の思い出

Leica SL2 & SIGMA 45mm F2.8 DG DN

 

緊急事態宣言中の3連休最終日。少し足を伸ばして千葉県・九十九里町の片貝海岸へ行ってきった。

太陽は雲に隠れ最高気温も10℃に届かない冬の日。それでも堤防の周りには多くの車が停められていた。

みんな何をしているのだろうと、波打ち際に目をやると、そこには10数人のサーフィンを楽しむ人々の姿が…。

「こんな寒い日に…」と思ったが、「本気でサーフィンを楽しむ人に季節など関係ないよ」と知人のサーファーが言っていた言葉を思い出した。

数年前、ここの漁港から砂浜に出たあたりの堤防に「バンクシーが書いたものなのでは!?」と話題になった落書きがある。バンクシーの作品として、誰もが一度は目にしたことがあるであろう、赤い風船を手放してしまった少女の絵だ。

当時、同じ時期に東京都内の堤防の鉄扉に描かれたいネズミの落書きが、やはり「バンクシーか?」と話題になり、それに便乗するかのように新聞、テレビなどのマスコミがこぞって取り上げたせいもあり、多くの人々が見物に訪れていたのを思いだす。

その絵は少しずつ徐々に人々の興味の対象ではなくなり、記憶からも忘れ去られた。それに比例するかのように堤防のコンクリートとともに風化してしまったのか、今は目を凝らして見なければ分からないほどに、うっすらとだが、かろうじてその姿をとどめていた。

もちろん、わざわざこんな寒い真冬の日にこの絵を見にくる人はいないだろう。

そんな人々の興味や記憶からも消え去っていく絵のすぐそばに一脚のイスが置かれていた。

座面の布は剥がれ、中の板がむき出しになっている。その板も割れてしまって、今はもうイスとしての機能は果たせない。

楽しかった夏の思い出と一緒に、誰かが置き去りにして行ったものなのかもしれない…。

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