Leica M10-P “Reporter”
夜が明けて、すでにかなりの時間が経っていた。
船の揺れに熟睡できないままウトウトしていたら、カーテンの隙間から陽が差し込んでいた。
カーテンを開けると、日の出どころか太陽はもうかなり高い位置から、夏のような日差しを海面に叩きつけていた。
部屋に設けられた専用のテラスに出て、デッキチェアーに腰を下ろし太平洋の海原を見つめる。
この旅も、あと数時間で終わりだ。
楽しかった旅の終わりにガラにもなくセンチな気分の自分がいた。
いや、旅が終わるからという理由だけではないのだろう…。
むかし訪れた場所での楽しかった思い出は、いまはもう、そこにはなかった。
いくつかの街で、楽しかった頃の思い出が鮮烈に脳裏に蘇ってきた。
そして、そんな楽しい時間が、決して戻ってこないということに気づかされた。
誰のせいでもない、自分自身のせいだろう…。
そう思うと、涙こそ出てきはしなかったが、なんだか他では味わったことのないような気分になった。
時間は取り戻せない。
この船が目的地を目指して前へ、前へと進んでいくように、後戻りなんてできないのだと、海を見つめながら、あらためて思った。
これまでの人生に後悔はないと思っていたが、どうやら、それは違っていたようだ。
それがわかっただけでも、今回の旅には意味があったのだろう…。